Monday, February 07, 2022 9:15 AM

小売業の窃盗被害、21年は過去最大〜各社は顔認識技術で対応

 米小売業界で、業界にとっては「禁じ手」ともいえる顔認識技術の活用に踏み切る企業が増えている。顔認識技術については、プライバシー侵害や悪用の恐れを危険視する声が高く、警察や公的機関による活用を禁止する法律を定める自治体も多い。しかし盗難被害が深刻化する小売業界では、この技術に防止策を求めている。

 ディーラー・スコープ誌によると、2021年は小売店や物流網で盗難が多発した年だった。全米小売業協会(NRF)が行った調査では、小売業者の7割が21年に万引きや窃盗が増えたと回答した。

 連邦政府機関は1月、ウォルマートやコストコ、CVS、GNCから総額2900万ドル以上の商品を組織的に盗んだ疑いで29人を起訴したばかり。被告らは、実店舗から盗んだ商品をアマゾンやイーベイ、その他のオンライン市場で転売して荒稼ぎした。

 小売業界リーダース協会(Retail Industry Leaders Association)とバイ・セイフ・アメリカ連合(Buy Safe America Coalition)によると、21年の盗難被害額は、小売店の総売上高の1.5%に当たる690億ドルに上った。犯行の手口は組織的かつ大規模化、巧妙化しているという。また、店の売り場ではなく配送センターを中心とした物流網の途中を狙った大量窃盗も多い。

 小売各社は、既存の店舗内防犯カメラと顔認識技術、人工知能(AI)技術を統合し、抑止力の拡大を目指している。

 顔認証技術を提供する新興企業フェイスファースト(FaceFirst)によると、同社の技術はすでに国内の小売大手の約25%で採用されている。同社のプラットフォームは小売各社のために1日当たり12兆件の顔照合を行なっている。

 ただ、小売各社は顔認識技術を導入していることを口外しない。消費者や消費者保護団体、人権擁護団体から攻撃され、消費者から不買運動を起こされることを恐れているためだ。

 顔認識技術の精度には当初から疑問があり、性別や人種によって間違いが起こりやすいという問題が未解決のままだ。マイクロソフトのティムニット・ゲブル氏とマサチューセッツ工科大学のジョイ・ブオラムウィニ氏が行った研究によると、肌の色が薄い男性では誤認率が1%であるのに対し、肌の色が濃い女性をスキャンすると最大で35%の誤認が生じるソフトウェアもある。