Wednesday, July 05, 2017 11:22 AM

米プラスチック生産が激増〜シェール革命で

 シェール革命が、米国のプラスチック業界に驚異的な成長をもたらしている。

■原材料供給の地殻変動

 ウォールストリート・ジャーナルによると、米国では新しい採掘技術の導入によって石油・ガスの生産量が過去10年で57%以上増加し、価格が低下した。同時にそれらを精製してできるガソリンや灯油などの燃料以外にも、さまざまな分野で使われる石油化学製品の生産が拡大している。

 業界は設備投資に多額を投じている。米国化学評議会(ACC)によると、建設中または計画中の新しい石油化学プロジェクトは1850億ドルに上り、2016年は化学工場関連の支出だけで米製造業設備投資の半分を占め、09年の20%以下から大幅に拡大した。業界大手ダウ・ケミカルは、メキシコ湾岸を中心に80億ドルを投じて石油化学施設の新設・拡張を進めており、エクソン・モービルやロイヤル・ダッチ・シェルダッチなどの総合石油会社も石化事業を拡張している。

 ダウのアンドリュー・リベリスCEOは、米国の石化製品の生産拡大について「製造業界への原料供給を誰が受け持つかに関して地殻構造変化が起きている」と説明する。同社は、向こう5年間に多くのプロジェクトに40億ドルを投資して米事業の拡張を加速させ、米国で生産したプラスチック・ペレット(プラスチック製品の材料)の20%以上を南米を中心とする外国に輸出する計画だ。ブラジルの場合、女性の社会進出が進んだ結果、最新型の容器に入ったベビーフードの需要が高まっており、プラスチック製のベビーフード容器の売り上げは年間約10%のペースで増えると見込まれている。

■より安全な投資

 国内では多くの企業が石油化学の新事業に取り組んでおり、ACCによると現在進行中の事業は310件を超える。EVの普及やライドシェアの増加で輸送用燃料の需要はいつ下がり始めるか分からない。それでもプラスチックの需要は向こう数十年にわたって増え続け、そのペースは世界GDPの1.5〜2倍超と予想され、石油化学は化石燃料関連でも安全な投資だと考えられている。

 経済学者によると、米国は多額の新投資でプラスチックの主要輸出国となり、貿易赤字も減る見通しだ。ACCはこれにより25年までに米国の経済生産が2940億ドル増え、46万2000人の直接・間接雇用が生まれると見ている。

 業界は、石化製品の原料価格はシェールの掘削によって今後何年間も安い状態が続くと見込んでおり、プラスチックのほか肥料、接着剤、溶剤などを含む米国の石油化学製品輸出は16年の170億ドルから27年までに年間1100億ドルに成長すると予想している。

 ただし、米国でのこうした投資にもリスクはある。米国の石油化学施設は、ほとんどが天然ガス価格と連動するエタンで稼働しており、アジアや欧州では主に原油の派生品であるナフサを使っている。エタン価格は09年に米国の天然ガス価格が低下した時に下がり、ナフサは11年に原油価格がバレル100ドル以上に高騰した時に上昇した。その後原油価格は50ドル以下に下がったため、ナフサを使う企業も競争力を高めている。天然ガスは歴史的な低価格を維持しているが、新しい需要でエタンの価格が上がる可能性もある。

 アクセンチュアの業界専門家は「収益性の低下で小企業やプライベート・エクイティ投資家が投資の第二波から脱落する可能性はあるが、大手は投資を続ける」と見ている。